【社労士監修】中小企業が「パワハラ防止法」に取り組むべき理由

【社労士監修】中小企業が「パワハラ防止法」に取り組むべき理由

パワハラ防止法は2020年6月1日に施行され、同日より大企業では職場のパワーハラスメント防止対策を講じることが義務化されました。また、中小企業は2022年4月1日から義務化が適用されます。

現在、パワハラ対策に取り組んではいないものの、何をすべきか検討中という中小企業の経営者の方も多いのではないでしょうか。そこで、パワハラ防止法の概要と押さえておくべきポイントのほか、準備を始めるメリット、防止対策について解説します。

パワハラ防止法とは?

パワハラ防止法という名前は聞いたことがあっても、その内容について詳しく知っている人は少ないかもしれません。ここでは、パワハラ防止法とはどのような法律なのかをご紹介します。

 

パワハラ防止法施行の背景

パワハラ防止法とは、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)を改正してできた、改正労働施策総合推進法のことです。パワハラ防止法は、メディアなどがつけた通称ですが、現在では端的に同法の内容を表現する名称として定着しています。

以前より存在していた労働施策総合推進法ですが、2019年5月29日、参議院本会議で「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が可決され、同法の第3条にもとづいて、労働施策総合推進法が改正されることになりました。

 

それまで、セクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)やマタニティハラスメント(以下、マタハラ)については、企業に対し防止措置の実施が義務づけられていましたが、パワハラに関する対策は企業の自主努力に任せていました。

しかし、職場におけるパワハラは、働く人の心身に多大な影響を及ぼす大きな問題です。そこで、法令で初めてパワハラの定義を行い、防止のための「雇用管理上の措置」を義務化し、2020年6月1日にパワハラ防止法が施行されたのです。

 

法改正のポイントは?

労働施策総合推進法の改正のポイントは、パワハラ対策が法制化されたことです。これにより、事業主は、職場のパワハラ防止のための雇用管理上必要な措置を講じる義務が発生しました。また、職場でパワハラに関するトラブルが生じた場合は、調停など個別紛争解決援助の申し出を行うことができます。

 

なお、「職場」が示す範囲としては、事業主が雇用した労働者が業務を遂行する場所を指しますが、通常働いている場所だけではなく、出張先など労働者が業務を遂行する場所も含まれます。また、「労働者」の定義としては、正規雇用労働者に加え、パートタイム労働者、契約社員などの非正規雇用労働者を含む、すべての労働者が該当します。

 

また、今回の改正では、セクハラやマタハラの防止に関して、国や事業主、労働者の責務が明確化されました。併せて、ハラスメントに関して事業主に相談した労働者に、不利益な扱いを行うことも禁止されています。

 

義務違反をするとどうなる? 

では、パワハラ防止法に違反すると、企業はどうなるのでしょうか。実は、2020年9月時点では、パワハラ防止法に罰則は設けられていません。

しかし、パワハラ防止法に違反し、厚生労働大臣が必要だと認めた場合は、事業主に対して助言や指導、または勧告が行われることがあり、勧告に従わない場合には企業名を公表できるとされています。

そもそもパワハラとは? 

パワハラ防止法の成立に伴い、パワハラの定義も明確化されました。続いては、パワハラの定義についてご紹介していきましょう。

パワハラの定義

厚生労働省が告示した「職場におけるハラスメント関係指針」によると、職場におけるパワハラとは以下の3つの要素をすべて満たすものです。

<職場におけるパワハラの3要素>

(1)優越的な関係を背景とした言動であって

(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

(3)労働者の就業環境が害されるもの

 

(1)は上司から部下、先輩から後輩へなどだけではなく、同僚や部下からであっても、「知識面」「集団性」などで「優越的な関係」があった場合はこれにあたります。

 

(2)は業務上、明らかに必要性のない行為、業務の目的を大きく逸脱した行為、業務を遂行するための手段として不適当な言動、当該行為の回数や行為者の数、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動などが該当します。

 

(3)は、身体的もしくは精神的な苦痛を与えることで就業環境が不快になり、能力の発揮に悪影響が生じる行為が含まれます。

 

パワハラの範囲がわかる「6類型」

パワハラの定義は抽象的なものも含まれるため、実際にパワハラなのかパワハラではないかの判断は困難です。客観的に見て「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」であれば、パワハラには該当しないとされているため、両者の違いを見定める必要があります。

パワハラの範囲を理解するため、厚生労働省が「職場におけるハラスメント関係指針」で提示したパワハラの6類型をもとに、具体例を見ていきましょう。

 

(1)身体的な攻撃

<該当すると考えられる例>

・殴打

・足蹴り

・相手に物を投げつける

 

<該当しないと考えられる例>

・誤ってぶつかる

 

(2)精神的な攻撃

<該当すると考えられる例>

・人格を否定するような言動

・業務の遂行に関する必要以上に長時間の厳しい叱責や、他の労働者の面前で、大声での威圧的な叱責を繰り返す行為

・相手の能力を否定し罵倒する内容のメールなどを、相手を含む複数の労働者に送信

 

<該当しないと考えられる例>

・遅刻など社会的ルールを欠いた行動や、ほかの労働者が傷つくような度を超えた悪口が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意

・企業の業務の内容や性質に照らして、重大な問題行動のあった労働者に強く注意

 

(3)人間関係からの切り離し

<該当すると考えられる例>

・業務から外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりする

・一人の労働者に対して、同僚が集団で無視して孤立させる

 

<該当しないと考えられる例>

・新規に採用した労働者の育成のために、短期間集中的に別室で研修などの教育を実施する

・懲戒規定にもとづき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、一時的に別室で必要な研修を受けさせる

 

(4)過小な要求

<該当すると考えられる例>

・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる

・気に入らない労働者に対して、嫌がらせのために仕事を与えない

 

<該当しないと考えられる例>

・労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する

 

(5)過大な要求

<該当すると考えられる例>

・長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を命ずる

・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する

・労働者に業務とは関係ない私的な雑用の処理を強制する

 

<該当しないと考えられる例>

・労働者を育成するために、現状よりも少し高いレベルの業務を任せる

・業務の繁忙期に、業務上の必要性から当該業務の担当者に、通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる

 

(6)個の侵害

<該当すると考えられる例>

・労働者を職場外でも継続的に監視する

・私物の写真撮影

・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に公開する

 

<該当しないと考えられる例>

・労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況などについてヒアリングをする

・労働者の了解を得て、当該労働者の病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し配慮を促す

 

以上となりますが、パワハラは必ずしもこれら6つの類型に分類されるわけではありません。

これらに該当しない場合でも、パワハラと認められるケースがあることに注意しましょう。

 

中小企業がパワハラ防止対策に取り組むメリット

中小企業に対するパワハラ防止対策義務化の適用は2022年4月1日からであり、それまでは努力義務期間とされています。

ですが、適用前にパワハラ防止のための措置を講じていれば、次のようなメリットがあります。

 

事前に対策をすることでパワハラ発生のリスクを回避し企業の評判を守る

パワハラ防止対策義務化の適用は2022年4月1日からですが、努力義務期間である以上は、企業として何らかのアクションを起こすことを検討すべきです。適用前だからといって、パワハラが発生すれば問題ですし、発生すれば企業の評判を落とすことになります。また、適用前に対応措置をしておくことで、直前に慌てることもありませんし、対策漏れなどのミスを防げるメリットもあるでしょう。

人材流出を防ぎ、人材確保がしやすくなる

パワハラは、受けた人が退職する可能性が高いだけでなく、ほかの従業員にも職場環境が悪い印象を与えてしまい、人材流出の要因となりかねません。反対に、パワハラのない環境が整えば、離職率の低下につながりやすくなるでしょう。

特に、新卒者の場合、企業選択の重要なポイントとして「ブラック企業かどうか」を挙げる人もいます。パワハラが発生する企業はブラック企業とみなされて敬遠される可能性もありますが、反対にパワハラ対策に熱心な企業であれば、ポジティブに評価されると考えられます。

 

企業がとるべきパワハラ対策と発生時の対応

それでは、具体的にパワハラ対策を行うには、どうすればいいのでしょうか。厚生労働省の「職場におけるハラスメント関係指針」では、職場のパワハラを防止するため、事業主が雇用管理上、講ずべき4つの措置を記載しています。

<事業主が雇用管理上、講ずべき措置>

(1)企業(事業主)の方針の明確化と周知・啓発

(2)相談や苦情に応じ、適切に対処する体制整備

(3)職場におけるパワハラへの迅速かつ適切な対応

(4)(1)~(3)の措置と合わせて講ずべき措置

 

このうち、(1)と(2)は、事前の措置です。

(1)では、社内で「パワハラを行ってはならない」という方針を就業規則などで規定し、従業員に周知・啓発します。同時に、社内報や社内ホームページにパワハラ対策の方針を掲載することや、パワハラの内容や発生原因などに関する研修・講習の実施も必要です。また、懲戒規定を定めてアナウンスします。

 

(2)では、社内外に相談窓口を設置し、労働者からの相談に適切に対応できるような仕組みを作ります。相談だけではなく苦情も受けつけることで、パワハラに該当するかどうか明確ではない場合も対応できます。また、事案が悪化して裁判などに発展する前に、食い止められる可能性が高くなります。

 

(3)は、発生後の措置です。パワハラ事案が発生したときは、相談窓口の担当者や人事部の管理職クラスなどが迅速かつ正確に確認しなくてはなりません。また、すみやかに被害者と行為者に対する措置を適正に行い、再発防止に向けた措置も講じます。事実関係の確認が困難な場合などは、中立な第三者に事実確認をすることも必要です。

 

(4)は、パワハラについて相談をした労働者に対し、企業がそのことを理由に解雇、またはその他の不利益な取り扱いをしないことや、相談者と行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を取ることなどがあります。

 

対策だけでなく、パワハラが発生した場合の損害賠償請求に備えよう

パワハラ防止法の施行により、パワハラの定義や類型が明確になり、パワハラに対する問題意識が高まりました。今後、パワハラに対する社会の目はますます厳しいものになっていくため、パワハラへの取り組みは中小企業にとって急務です。

 

それだけでなく、万が一パワハラが発生した場合に備え、損害賠償請求に対するリスクも視野に入れておくべきでしょう。AIG損保では、「業務災害総合保険(ハイパー任意労災)」の中に、「雇用慣行賠償責任補償特約」をご用意しています。パワハラ対策の一環として、加入をご検討ください。

 

出典:「職場におけるハラスメント関係指針」(明るい職場応援団)を加工して作成

「パワーハラスメントの定義」(厚生労働省)を加工して作成

参考:(明るい職場応援団

 

*記載されている法令、規則等は記事作成日現在のものです。
*AIG損保は掲載内容につき万全の注意をしておりますが、内容の正確性完全性につきこれを保証するものではありません。
*お客さまの個別の案件につきましては、専門家・専門機関にご相談ください。

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監修者プロフィール:

山本喜一(やまもときいち)

社会保険労務士法人日本人事

特定社会保険労務士、精神保健福祉士

上場支援、労働基準監督署、労働組合、メンタルヘルス不調者、問題社員対応などを得意とする。現在は同一労働同一賃金対応に力を入れている。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規など多数。

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