
リスク対策
労働者の健康管理のために。産業医の役割と選任方法
1 はじめに
事業場において、労働者の健康状態を適切に把握し、健康管理のための効果的な措置を講じるためには、医学の専門的な知識が不可欠です。そのため、50人以上の労働者を雇用する事業場では、事業者は産業医を選任し、労働者の健康管理などを行わせることが義務付けられています。産業医の選任は、労災防止対策はもちろん、健康で活力ある職場づくりのためにも重要です。
今回は、事業場における産業医の選任について解説します。また、産業医のおもな役割や、産業医が見つからない場合の対処法などについても見ていきましょう。
2 産業医の選任について
前述したように、事業者は事業場の規模に応じて、次のように産業医を選任することが、法律で義務付けられています。
・労働者数が50人以上で3,000人以下の規模の事業場は、産業医を1名以上選任する
・労働者数が3,001人以上の規模の事業場は、産業医を2名以上選任する
また、「常時1,000人以上の労働者を雇用する事業場」と「労働安全衛生規則第13条第1項第2号に定められた業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場」は、その事業場に専属の産業医を選任する必要があります。
なお、以前までは法人の代表者などが、みずからの事業場で産業医として兼務することができました。しかし、2016年3月に労働安全衛生規則が改正され、2017年4月1日より禁止となっています。これは、法人の代表者がみずからの事業場の産業医を兼務した場合、労働者の健康管理と事業経営の利益が一致しない場合等も想定され、産業医としての役割が果たされないリスクがあると考えられたためです。
法人の代表者などを産業医として選任している場合は、早期改善の必要があります。
3 産業医選任の要件
産業医は医師であることを前提として、次のいずれかの要件を満たす者から選任します。
・厚生労働大臣が指定する者(日本医師会、産業医科大学)が実施する研修の修了者
・産業医の養成課程を設置する産業医科大学、またはそのほかの大学で必要な課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
・試験区分「保健衛生」の労働衛生コンサルタント試験に合格した者
・大学で「労働衛生」に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師、またはこれらの経験者
4 産業医の役割
産業医は、事業場で次のような職務を遂行する役割があります。
・健康診断や面接指導の実施
・健康診断の結果に基づいた労働者の健康保持のための措置
・作業環境の維持や管理、作業の管理など、労働者の健康管理に関する職務の遂行
・健康教育や健康相談など、労働者の健康の保持増進を図る措置
・労働衛生教育の実施
・労働者の健康障害の原因の調査、および再発防止のための措置
また、産業医が労働者の健康確保のための措置が必要と判断した場合は、事業者に対して、健康管理などについて勧告をすることが可能です。
産業医は少なくとも毎月1度は作業場などを巡視し、作業方法や衛生状態に問題があった場合に、労働者の健康障害防止のために必要な措置を直ちに講じなければなりません。
5 産業医が見つからない場合
産業医が見つからずに選任が難しい場合は、以下の方法で産業医を探してみましょう。見つからないからといって、選任しないのは法律違反になりますので、必ず探してください。
・健康診断を行う機関へ相談する
健康診断を実施する機関には、産業医の資格を持つ医師が在籍しています。医師の中には、ほかの事業場で産業医として活動できる方もいますので、相談してみましょう。
・親会社や関連会社などに相談する
親会社や関連会社などに産業医がいる場合は、その方に自社の産業医も引き受けてくれないかを、打診してみましょう。
6 おわりに
今回は、産業医の選任義務を持つ、労働者数が50人以上の企業についてご紹介しました。しかし、たとえ50人未満の企業でも、必要な知識を持つ医師などに、労働者の健康管理を依頼することもできます。
事業者の実施する健康診断と、産業医による労働者の健康管理を通して、労災防止対策を講じるとともに、健康で活力ある職場づくりを実現していきましょう。
MKT-2020-507
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