【弁護士解説】治療と仕事の両立~従業員が安心して働ける環境づくりとは~

1 はじめに

 少子高齢社会を迎え、中小企業においてはこれまで以上に人材の採用・育成、そして離職の防止が喫緊の経営課題となっています。

事業の継続、そして更なる成長を実現するためには、職場環境の整備を進め、有為な人材を確保することが不可欠です。

 その一方、従業員が将来に対する不安として重要視しているのは、自分が病気になった場合の仕事と治療の両立、そして長期休業による収入減等の経済的マイナスです。

 今回のコラムでは、治療と仕事の両立にスポットを当てて、従業員が安心して働ける環境づくりをするため、企業にはどのような対応が求められているのかについて、概要を解説いたします。

 

2 治療を受けながら仕事をする時代に

 厚生労働省健康局がん・疾病対策課が公表をしている「全国がん登録罹患数・率 報告」 によれば、2016年度は、年間約99万5000人が新たにがんと診断されており、いわゆる就労世代に当たる45歳未満及び45~63歳の割合は、それぞれ4.7%と21.6%、合計26.3%とされています。

 また、脳卒中をはじめとした脳血管疾患についても、厚生労働省が行った「平成26年度患者調査」によれば、患者数は118万人と推定されており、そのうち約14%が就労世代とされています 。

 このように就労世代の相応の人数が、がんや脳血管疾患に罹患していますが、現在では、医療技術の進歩等により、いわゆる三大疾患についても生存率が向上しており、病気になった場合でも、すぐに退職をし、治療に専念するのではなく、治療を継続しながら仕事を続ける人が増えてきているのが特徴です。企業としては、まずはこのような現状を正しく認識することが出発点となります。

 

3 従業員は企業に対しどのようなことを求めているのか?

 それでは、このような現状を前提として、従業員は企業に対し、どのようなニーズを持っているのでしょうか。

 現在、働き方改革や健康経営の広がりを背景に、就活生が企業に求めるニーズとしては、「健康や働き方に配慮した職場環境」や「福利厚生の充実」が上位に挙げられています。

グラフ3.png ※経済産業省:健康経営と労働市場の関係性(平成28年度調査の結果)

 「健康や働き方に配慮した職場環境」のうち、特に、従業員の側から良く聞く声としては、自分が病気になった場合のキャリアの継続と経済面に関する不安があります。実際、東京都福祉保健局が行ったがん患者の就労等に関する実態調査では、「治療と仕事を両立するうえで困難であったこと」としては、治療費の問題(34.5%)、そして働き方を変えたり、休職することで収入が減少することに関する不安(29.7%)が上位を占めています。

グラフ4.png※東京都福祉保健局:「がん患者の就労等に関する実態調査」報告書(平成26年5月)

 

 業務外の事由によるケガや病気のため、会社を休み、十分な収入が得られない場合、公的な制度として、企業が加入する健康保険より傷病手当金の支給を受けることは可能ですが、傷病手当金は、最大で1年6カ月間と期間が限定され、支給額が標準報酬月額の約3分の2相当額であるなど、必ずしも従業員の充分なニーズを満たせているとは言えません。

 また、特に最近ではメンタルヘルスを害する従業員の数が増加傾向にあり、メンタルヘルスの場合、休業から職場復帰まで、治療に相応の時間を有する点に特徴があります。治療と仕事を両立させ、従業員が安心して働ける職場づくりを行うためには、柔軟な雇用・復職形態に加え、復帰までの経済面での不安をどのように払拭するか、企業として従業員のニーズに適切に応える必要があります。

 

4 企業に求められる対応~これまで以上に従業員が安心して働ける職場づくりを~

 厚生労働省は、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン 」を作成し、治療と仕事の両立支援を行う際の留意事項や必要な書式等を公表しており、企業としては、まずは、上記ガイドラインを踏まえ、できる範囲で治療と仕事の両立支援策を進めることが求められます。同時に、先程説明したとおり、従業員は、病気やケガによる長期休業時の収入減少に大きな不安を感じているため、従業員のニーズに応えるという観点からは、所得補償保険等を活用するなどの検討も有益です。

 治療と仕事の両立支援は、従業員のメリットになるだけではなく、企業にとっても、人材確保の観点、さらには生産性の向上やイメージアップなど大きなメリットがあります。病気は、ある日突然やってくる、誰しもが抱える身近なリスクです。事業の継続、そして確実な成長を実現するためにも、これまで以上に従業員が安心して働ける職場づくりをすることが企業には求められています。

(このコラムの内容は、令和2年3月現在の法令等を前提にしております)。

(執筆)五常総合法律事務所 弁護士 持田 大輔

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