転ばぬ先の杖~建設業で知っておきたい元請け・下請けとの関係とハラスメント対策~

 一般に直接雇用関係の無い取引先企業の労働者との間には、特段の事情がない限り労働契約に付随する義務は生じません。しかし昨年のハラスメント規制法改正で、職場におけるパワーハラスメント(以下パワハラ)防止対策が強化されたことに合わせ、「事業主が自ら雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組」が指針で示されることになりました。

 自社の従業員が、直接の雇用関係が無い他社の従業員からハラスメントを受けないことはもちろんのこと、他社の従業員にハラスメントをしてしまうことのないよう措置を講ずることが望ましいということになったのです。事業主はこの指針に従って、パワハラ防止規定の策定や被害者相談窓口の設置など、社内のパワハラ同様に精神的なケアを含む対応を行う必要があります。

 建設業において、元請けである大手建設会社と、いわゆる“一人親方”を含む二次下請けとの間に挟まれる一次下請けという立場では、直接の雇用関係が無い双方に対して、自社の従業員が被害者、あるいは加害者となる可能性をはらんでおり、予めその対応に備えることが急務となっています。今回は、それぞれのケースで求められる企業の安全配慮義務を中心にご紹介します。

自社の従業員が、元請け業者からパワハラを受けたら?(従業員被害者型)

 建設業において、一般的に元請け業者は、下請け業者に非常に大きな影響力を持っています。そのため、元請けの従業員から、一次下請けである自社の従業員がハラスメント被害を受ける可能性があります。例えば下請け業者であるA社の現場監督が、元請けの大手建設会社B社の担当者から「工期が遅れているのはお前の監督がなっていないからだ」と再三罵倒されるなどのパワハラを受けたとします。相手が元請けの従業員となると、取引上の関係からも毅然と対応することが難しいのが現実です。しかしたとえ相手が元請け業者であっても、事業主には従業員の安全に配慮する義務があり、対応を怠った場合には、損害賠償請求がなされる可能性もあるのです。

被害相談処理にあたり、社内のパワハラ同様に対応することはもちろん、元請けの加害者やその雇用者に問題行為の中止や再発防止に向けた厳重な事後措置を求めることが必要です。

パワハラ被害に遭った自社従業員への対応<建設業向け>パワハラ相関図①(被害者型).jpeg

 元請け従業員から自社従業員がパワハラ被害を受けた場合、具体的に事業主はどのような対応が必要になるのでしょうか?指針では以下の対応が望ましいと示されています。

1 . 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知する

2 . 1の相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにする

3 . 事案の内容や状況に応じて、被害者のメンタル不調への相談に対応する等

4 . 著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に、一人で対応させない等

5 . 事前にパワーハラスメントの対応に関するマニュアル作成や研修を実施する

 また、こうした社内対応とは別に、自社従業員にこの種の被害は必ず会社に報告することを義務付けたり、その報告をしたことによって自社従業員が不利益を受けないようにすることを、予め規程に盛り込んでおくことが大切です。

二次下請けに自社の従業員がパワハラをしてしまった場合(従業員加害者型)

 建設業では一次下請けである自社の従業員が、二次下請けの従業員に対してパワハラを行い、加害者となってしまう可能性もあります。例えばこのような事例が考えられます。二次下請けC社の従業員は、資材の運び出しの際の不注意で、一次下請けA社の従業員に軽いけがを負わせるなど、普段から不手際の多い従業員でした。A社従業員は、注意されてもC社従業員に反省の態度がみえないことからに腹を立てて大声で怒鳴りつけ威嚇したため、C社従業員は恐怖を感じて出社できなくなってしまいました。

 一次下請けである自社の従業員が、二次下請けの従業員に対してパワハラの加害者となった場合、一次下請けは法的使用者責任を問われる可能性があります。また法的責任の追及だけでなく、企業としての信頼の低下、下請け解約の申し入れや取引停止となることも想定され、それにともなう損害賠償請求などの、大きな経済的損失が生じる可能性があります。

 

被害者となった二次下請け従業員への対応<建設業向け>パワハラ相関図②(加害者型).jpeg

 企業は、下請け従業員へのパワハラ防止に向けて「自社社員と同様の方針を示す」ことが望ましいです。具体的には、自社のパワハラ防止規程のなかに、あらかじめこうしたことを予測して、対応する規程を設けることになります。基本的には下請け労働者に対する相談窓口を設け、そこで相談を受け付けて迅速な解決を図ることなどを盛り込むことが望ましいとされています。

 このように自社従業員がパワハラの加害者となる可能性を考慮し、あらかじめ服務規程やハラスメント防止規定など、その対応を明確にしておくことが求められます。

 建設業という特殊な環境において、元請け、二次下請けの間に挟まれる立場である一次下請けは、自社従業員が他社から受ける、あるいは他社に対するハラスメントというリスクに予め備え、自社の従業員、および二次下請けの従業員の安全な労働を担保し、より円滑な関係を保つことで、企業としての信頼を確固たるものにしていくことが求められています。

 

(執筆)職場のハラスメント研究所 金子 雅臣

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