【経営者から学ぶ】お客さまとの距離を縮めてビジネスを加速させるーー関谷醸造が目指す老舗企業の進化とは?(後編)

【経営者から学ぶ】お客さまとの距離を縮めてビジネスを加速させるーー関谷醸造が目指す老舗企業の進化とは?(後編)

多くの中小企業が「人材確保」と「人材育成」についてのリスクを重要な経営課題のひとつとして挙げている中、企業の競争力強化を図るためには人材育成の強化が不可欠です。前編では、独自の組織づくりに挑戦する7代目・関谷 健氏に現場での人材マネジメントについて教えていただきました。

「経営者から学ぶ」対談シリーズは、企業経営にも通ずるチームマネジメントのスペシャリスト、青山学院大学陸上競技部を箱根駅伝4連覇、大学駅伝3冠へと導いた原晋監督が、様々なフィールドで活躍する経営者との対談を通じて、日本を革新していく中小企業経営のヒントを探っていきます。

愛知県設楽町にある関谷醸造株式会社は、江戸時代から続く老舗の造り酒屋。顧客ニーズの変化が激しい時代に、企業はいかにして競争力を上げていくべきか--今回の後編では、関谷醸造での新たな挑戦と、インナーブランディングによって変化した社内意識についてお話を伺いました。

対談ゲスト プロフィール
関谷醸造株式会社 代表取締役 関谷 健(せきや・たけし)氏

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1994年、東京農業大学 農学部醸造学科 卒業。1998年、現・関谷醸造株式会社への入社を機に地元である愛知県設楽町に戻る。2010年、7代目として代表取締役に就任。代表銘柄である「蓬莱泉(ほうらいせん)」は、愛知県内への出荷が約8割を占める。伝統的な酒造りを継承しつつ、アグリ事業部の設置やレストランバー「SAKE BAR 圓谷」を名古屋市内にて開業。日本酒文化を紡ぎ、広く発信していくために海外事業にも積極的に取り組んでいる。

「小さな工房」だから生まれた顧客体験と学びの場

青山学院大学陸上競技部長距離ブロック 監督 晋氏(以下、原氏)

関谷醸造株式会社 代表取締役 関谷 健氏(以下、関谷氏)

原氏: 2004年に開設された「ほうらいせん吟醸工房」では、一般の方もお酒造り体験ができるとお聞きしました。

関谷氏: そうなんです。お酒造りに参加するってイメージ、ありますか?

原氏: 僕は参加したことないですね……

関谷氏: そうですよね。この工房は、メインの工房に対して第二工房にあたります。あえてダウンサイジングした工房を開設することで、お客さま参加型のサービスを提供できると思ったんです。

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原氏: 具体的にはどういったことができるんですか?

関谷氏: 事前にお申込みいただければ、お酒造りの主な作業の一部に参加することができます。本当に限られた作業ですが。それと、少ロットで醸(かも)すことができる「オーダーメイドのお酒造り」ですね。例えば、原監督のご実家がお米の農家さんだとしたら、実家のお米を使ってお好みの日本酒をつくることができます。青山学院大学の校章をデザインしたオリジナルのラベルをつけることもできますよ。

原氏: それはいい!陸上部の各チームのユニフォームも、中学・高校くらいまでは既製品に校章や学校名が入るだけなんですが、大学のトップチームとなるとオリジナルで作ってもらえるんですね。これが選手のモチベーションとステータスに繋がる。日本酒だと、「これ僕が作ったんですよ」って広めたくなりますね。

関谷氏: まさに。おかげさまでここ10年の間に約200組以上の方々がオーダーメイドされています。

原氏: この「オーダーメイドのお酒造り」は、社員研修にいいんじゃないですか?前編でもお話しいただいた通り、お酒造りは各工程のつながりによって良いお酒が生まれるというお話でした。ですので、社員の新人研修として一人ひとり工程を紡いで、同期全員で出来上がった日本酒を飲むなんてどうですか?

関谷氏: 実は、愛知県内だと2社ほど社員訓練の一環として利用されています。そこの会社では、お世話になっている社外の取引先へお渡ししているそうです。

原氏: いい取り組みだなぁ。関谷さん、さすがですね。

関谷氏: いえいえ。今度は作り手の話になるんですが、お酒造りは製造業なので、飲んでくれる人のことを「想う」ってなかなか難しいんですよね。どうしても醸すことに専念してしまう。でも、工房にはお客さまが来てくれるので、「この人が丹精込めてつくったお酒を飲んでくれるんだ」という実感が芽生えるんです。それが社内のサービス精神やホスピタリティの向上につながっています。

原氏: なるほど。

関谷氏: あと、大きな工房だとある程度は機械を取り入れなければ手が回りません。吟醸工房の場合、サイズでいうとドラム缶くらいの量の仕込みなので、機械ではなく人の手で仕込むほうが、お酒造りの原始的な作業工程を感覚的に伝えることができる--すなわち、お酒造りに必要な作業本来の意味合いを学ぶことができるんです。

原氏: 効率化すべきところは効率化して、進化させていくということですね。どの業種もそうだと思いますが、私たちの部員も「形」だけのやり方を覚えてしまうと、「その仕事、何のためにやってるの?」って聞かれたときに答えられないんですよね。

関谷氏: 私たちの場合、社員教育の一環として若いメンバーは積極的に吟醸工房へ行かせています。メインの工場で機械作業をする際に、作業の本質や手で覚えた感覚を学んだ上で取り組んでもらうための「学びの場」ですね。

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日本酒の文化を継承するために。海外で感じた日本酒の価値

原氏: メインの工場にはすでに機械導入を進めていらっしゃるんですね。

関谷氏: はい。正確には、私の父の代に。実は父は青学の出身なんですよ。

原氏: なんと、そうでしたか!不思議なご縁がありますね。

関谷氏: ええ、本当に。父が6代目として引き継いでいた時代は、杜氏さんは寝食を忘れて作業してくださるのが慣習化してしまっていて……。社員として杜氏さんを迎えるにあたり、労働環境を整えなければ、ということで機械化に踏み切ったと聞いています。

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原氏: 機械化にはメリットもデメリットもあるかと思います。社内で議論などはありましたか?

関谷氏: それが意外とスムーズに。私たちの蔵に来てくれていた杜氏さんも社員も前向きに協力してくれました。将来的には、皆さん引退されてしまうので、彼らが蓄積してきた知見や感覚をデータ化して受け継いでいかないと、お酒造り自体が続かなくなってしまう。そういった意味でも非常に協力してくれました。

原氏: 次の未来へ継承していくことも重要ですよね。昨今、海外における日本酒文化も広がってきていますよね。海外市場に向けては、どのように取り組んでいますか?

関谷氏: 現状の出荷量でいうと全体の67%ほどの取引ですが、流通ルートの拡大に励んでいます。海外のレストランに直接営業に行くのは難しいので、海外の食品関連の展示会に参加したり、販売代理店を探したり。またチップ制度のある海外では、従業員は料理やお酒の勧め方によって評価されるので、彼らは知識を増やすことに貪欲です。私たちの日本酒を置くと決めてくれたレストランには、酒蔵の歴史から日本酒の味わいなどの特徴を我々が直接赴いてプレゼンすることもあります。

原氏: 海外に出てみて、1番大変だと感じたことは何ですか?

関谷氏: やはりコミュニケーションですね。日本酒を説明するには、専門用語を使わなければならないので、ニュアンスも含めて正確に伝えることが難しいんです。

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原氏: 海外での反応はいかがですか?

関谷氏: 日本酒の価値についてすごく理解があると感じます。日本を象徴する食文化のひとつとして捉えてくれていますし、私たちの酒蔵の155年という歴史とその仕事に関わっている人々をとてもリスペクトしてくれるんですね。

原氏: 企業のストーリーや歴史を重視し、オーナーに対してもリスペクトがあるということなんですね。

関谷氏: はい。そういった意味で誤解を恐れずにお伝えすると、日本よりも海外の方々の方が日本酒の価値を理解してくれているかもしれません。

製造業ではなく、サービス業の会社として次の時代へ

原氏: 2013年には『SAKE BAR 圓谷(まるたに)』という飲食店をオープンされたとのことですが、これはどういった経緯ですか?

関谷氏: まず、ほうらいせん吟醸工房を始めた頃から、「関谷醸造は製造業の会社じゃないからね。サービス業の会社だよ」ということを社員にいつも話していました。ただ単にアルコールを含む液体を売る会社ではなく、それを飲んで楽しんでくれる人の「楽しい時間」を作る。

原氏: 企業の在り方をトップから社員へときちんと伝えていらっしゃる。インナーブランディングですね。

関谷氏: 「蓬莱泉って美味しいよね」って楽しんでくれる時間を作るためのお手伝いをするのが関谷醸造という会社であり、お酒はその手段の1つだという風に考え直そうと伝えています。

原氏: 私も今年の学生には、青学ファンの皆さんに喜んでもらうために頑張ろうじゃないか、ということを伝えるようにしています。この16年間をかけてできた「青学ブランド」が多くのファンに支えてもらえるチームへと成長した今、ファンの皆さんの笑顔が見たい。箱根駅伝をどう戦うか、どうやってオール区間賞を獲るかではなく、私たちはファンの皆さんを笑顔にするために頑張るということが、学生のモチベーションへも繋がるし行動指針となる。

関谷氏: 私たちの場合、日本酒から生まれる「楽しい時間」のイメージを具現化するために、直接お客さまと関わりあう場があったらいいなと考えていました。そこで思い浮かんだのが飲食業であり、『SAKE BAR 圓谷』開業のきっかけだったんです。

具体的には、蔵の従業員や社員を順番に店舗へ連れていき、お店のスタッフとしてお客さまへ接客をしてもらっています。ある従業員が「これ、僕がつくったんです。お味どうですか?」と聞くと、お客さまから「ちょっと温めた方が美味しいかも」なんて感想が返ってくることもあるんです。普段、自分たちが醸している日本酒を、お客さまがどのように楽しんでくれているのかを実際に目にすることができる上に、お客さまの「生の声」が聞けるんです。本人のモチベーションアップだけでなく、新しい商品開発の参考にもなっています。

原氏: こういった新しい取り組みというのは、どういったときに思い浮かぶのですか?

関谷氏: もちろん課題があって、こうしたいなーとぼんやり考えていることから思い浮かぶこともありますが、他業種が取り組んでいることからヒントを得ることも多いです。あ、これ私たちもできそうだなって。

原氏: 素晴らしい。私も “すり替え上手” なんですよ。ドラマでも漫才でも、自分がその立場だったらどういうアクションを起こすかなっていうのを考えるようにしています。私がボケ役だったらこうボケてるな、とか。新聞を読むときは、すり替えるだけでなく問題点とその解決方法を洗い出すようにしています。

関谷氏: 面白いですね!

原氏: そして、解決策を出すときはひとつではなく、3つ出すようにしています。問題の本質を考えて、本質に対する解決策はこれ。それがダメだったらこの解決策だな、というように考えることを癖づけているんです。関谷さんの発想にも似た「感覚」を感じました。色々なことにチャレンジされていますが、失敗もありますよね?

関谷氏: もちろん、たくさんあります。商品開発をしてみて、「面白い味になりそう」といって始めたものが全然面白い味にならなかった……とか。

原氏: 失敗しても仕事へのモチベーションを維持するために工夫されていることはありますか?

関谷氏: 私の場合は、「新しい仕組み」を考えることですね。お酒のオーダーメイドを始めるときも、誰を巻き込むか考えて、そこからサービスの仕組みを考えて……。経営者の仕事、というより私の楽しみですね。

原氏: いやぁ、一緒です。仕組みを考えるときってワクワクしますよね。

関谷氏: 原監督もそうですか!

原氏: 区間配置はこうしようか、今年のトレーニングメニューは何にしようか、今年のテーマはこれだな……と将来を考える。仕組みづくりが一番楽しいですよ!

関谷氏: そうですよね。私がいなくても維持できる「仕組み」であることが重要です。常に私が現場にいて、ダメ出しするのは違うかなと思います。駅伝も、監督は一緒に走るわけではありませんよね。現場の社員が自分たちで考えて動いて、どうしても上手くいかないなというときだけアドバイスやサポートをしてあげる。最終的には、社員たちによってちゃんと成立する「仕組み」を考えるのが私の仕事だと思います。

原氏: その通りですね。それでは最後に、読者の皆さんへひとことメッセージをお願いします。

関谷氏: 私たちはお客さまとの距離をどんどん近付けていくことでビジネスを発展させていきたいと考えています。これからの時代に企業が進化していくためには、業種は違ってもどうやってエンドユーザーの「顔」を見にいくのかが重要なキーポイントになってくると思います。たとえ見ることが難しい場合でも、見る努力を続けていきたいです。

原氏: ありがとうございました!

———

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次の時代を生き抜く中小企業の経営者の皆さまとともに

関谷醸造の日本酒を世界へ届けることは、「日本酒文化」を継承していくことにつながる——今回取材させていただいた関谷氏は、彼の次の代へと事業を継承していくために果敢にチャレンジを続ける経営者の一人です。チャレンジの理由はそれだけではありません。地元・設楽町への想い、お酒造りを支えてくださる農家や従業員への想い、関谷醸造の日本酒を選んでくださるお客さまへの想いなど、事業にかけるさまざまな想いが関谷氏の原動力となっているように感じました。今後益々のご活躍を楽しみにしています!

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