【経営者から学ぶ】人材育成の強化を競争力に。創業155年の老舗酒造の現場に学ぶ、チームマネジメント事例(前編)

【経営者から学ぶ】人材育成の強化を競争力に。創業155年の老舗酒造の現場に学ぶ、チームマネジメント事例(前編)

急激に変化する経営環境の中で、多くの中小企業は人材確保へのリスクを感じています。人材育成の強化は、企業の競争力強化につながる重要課題です。

「経営者から学ぶ」対談シリーズは、企業経営にも通ずるチームマネジメントのスペシャリスト、青山学院大学陸上競技部を箱根駅伝4連覇、大学駅伝3冠へと導いた原晋監督が様々なフィールドで活躍する経営者との対談を通じて、日本を革新していく中小企業経営のヒントを探っていきます。

2回は愛知県設楽町で155年続く造り酒屋、関谷醸造株式会社。7代目の代表取締役となる関谷 健氏は、老舗企業として次の時代を生き抜くために、新たな領域へのチャレンジを続けています。今、いかにして企業の存在価値に向き合い、どんな人材マネジメントに取り組んでいるのか、お話を伺いました。

対談ゲスト プロフィール
関谷醸造株式会社 代表取締役 関谷 健(せきや・たけし)氏

1994年、東京農業大学 農学部醸造学科 卒業。1998年、現・関谷醸造株式会社への入社を機に地元である愛知県設楽町に戻る。2010年、7代目として代表取締役に就任。代表銘柄である「蓬莱泉(ほうらいせん)」は、愛知県内への出荷が約8割を占める。伝統的な酒造りを事業継承しつつ、アグリ事業部の設置やレストランバー「SAKE BAR 圓谷」を名古屋市内にて開業。日本酒文化を紡ぎ、広く発信していくために海外事業にも積極的に取り組んでいる。

創業155年。伝統を守り、進化を続ける関谷醸造

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青山学院大学陸上競技部長距離ブロック 監督 晋氏(以下、原氏)

関谷醸造株式会社 代表取締役 関谷 健氏(以下、関谷氏)

原氏: 7代目として事業継承された当時を振り返ってみていかがですか? 

関谷氏: それほど大きな決意があったわけではないんです。高校生くらいの頃に、何となく家業を継ぐのかなという感覚があって東京農業大学へ。醸造科でお酒造りについて学んだあと、肥料会社と農業試験場(※)を経て、2010年に現役職に就任しました。弟と妹がいるのですが、早々に離脱を宣言されました。※作物の品種改良や農業技術の開発を行う研究機関

原氏: 企業寿命30年説が唱えられるなか、創業155年ですよね。伝統を守りつつ、7代に渡り継続しているということから、まずはじめのキーワードは「伝統と進化」だと思います。その根底にある「教え」について、私なりに考えてきました。関谷さんの出身高校の校訓は「自ら考え、自ら律し、自ら行い、己の道を開く」ですよね?

関谷氏: そうです!よくご存知で。

原氏: 実は今年、我が青山学院大学へ出身高校から1名有望なランナーが入部しました。もし箱根駅伝に出るとなると地元で初めてのことらしく、期待を背負って頑張りますって言ってくれています。頼もしいんですよ。

関谷氏: なるほど、そんなご縁が。

原氏: なので、今日は事前に色々情報を聞き出してきたんです。学校の教えが関谷さんのこれまでの経歴や、経営思想に活きている部分はありますか?

関谷氏: あると思いますね。高校もそうですが、大学時代の建学の理念が「人物を畑に還す」なんですね。ここでいう「畑」というのは、本当の畑ではなくいわゆる「現場」のこと。明治維新のあと、国を建て直す際に基礎となる「農業」が重要になるという考えから誕生した大学なので。現在、私たちも酒造りだけでなく、その原料を生み出す農業についての取り組みも始めたので、まさにその通りだなと。

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「地」にこだわる理由と企業の存在価値

原氏: 代表銘柄の「蓬莱泉」、これが美味い!私は中京大学の出身なので、大学時代から本当によく飲んでいましたよ。

関谷氏: ありがとうございます!

原氏: 日本酒好きの先輩がいつも持ってきてくれるのが「蓬莱泉」でした。地元では本当に有名なお酒ですよね。

関谷氏: 私たちの出荷先は愛知県内が8割を占めているんです。

原氏: ということは、ほぼほぼ県内で消費されている地酒ってことですね。

関谷氏: そうです。もともと「地酒」って定義として明確なものがなくて。メーカーごとに「地酒です」と言っているのが現状なんです。私たちにとって「地酒」って何だろうと考えたときに、やはり「地元」の資源を使うべきだと。働いてくださる方はもちろん、原料となるお米や水も資源のひとつです。一般的には、兵庫県の山田錦が酒造りに使用される品種として有名ですが、「地酒」という以上は地元のお米を少なくとも半分以上は使いたいと考えました。そうして出来上がった日本酒を地元の方々に愛飲していただきたい。これこそ、私たちが考える「地酒」なんじゃないかなと考えました。

原氏: キーワードは「地産地消」ですか?

関谷氏: 「地産地消」ですね。地元の農家さんにお米を作っていただいていますし、梅酒はすぐ隣の町で製造してもらっています。

原氏: お酒造りだけでなく、農業への取り組みとしてお米作りまでされています。これはどういったきっかけで始めたのですか?

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関谷氏: 私たちの蔵では、地元の農家で育てられたお米を6割以上使用しています。過疎地域なので、とにかくおじいちゃんばっかりなんですよ。ある時、「わしら、あと20年も農業続けれんと思う。そのとき、お米どうするね?」って言われて、どうしたもんかなと……。それから、小泉内閣の「構造改革」による規制緩和で、株式会社が農業に参入できるようになったことを機に、私たちが受け皿になるしかないと思いました。引退される農家さんの田んぼを引き受けて、今では27ヘクタールを超えるまでに拡大しています。

原氏: 地元の素材にこだわるのは「地酒」というキーワードに加えてもう1点、関谷さんがこの地域で頑張らないと設楽町は限界集落になってしまうかもしれないということですよね。

関谷氏: そうなんです。

原氏: やはり、ふるさとへの想いでしょうか?

関谷氏: 関谷醸造はこの街あっての会社なので。「地」のものにこだわることで、微々たるものですが、地元に雇用を生み出すことができますよね。こういったことを地元企業がやっていかないと、本当に町が廃れてしまいますから。

原氏: 故郷がなくなるという心の虚しさも根底にありますよね。関谷醸造は都心から離れていて、流通コストがかかる中でもこの町に残る、ということですね。

関谷氏: お酒って嗜好品ですよね。酔っ払うためだけに飲んでいるわけじゃありません。私たちが作ったお酒を飲むと、なんとなく設楽町や奥三河ののどかな風景が感じられる--。そうやって楽しんでいただくために努力することが、日本酒の需要を作ることに繋がると考えています。

酒造りに必要なチームワークと変化の時代を生き抜く

原氏: 関谷醸造では、企業理念にある「和醸良酒(人の和によって造られる美酒)」を合言葉に、社員とのチームワークを大切にされていると伺いました。お酒造りに必要なチームワークを教えてください。

関谷氏: お酒造りには色々な工程があって、その工程毎に担当者を置く分業制です。自分の担当工程だけを自分の好きなようにこなして「あとはよろしく!」と作業を引き継ぐだけでは、やっぱり良いお酒にならないんですよ。最終的に仕上げたいお酒のイメージを全工程の担当者が共有することで、「それなら今日はこういう風に洗わないといけないな」「蒸すときは柔らかめに蒸さないといけないな」というように全員で考えて実行することが大事なんです。

原氏: まさしく駅伝と一緒ですね。10区間のうち、1区間で大ブレーキを起こしてしまうとチームの出来栄えが想定とは全く異なるものになってしまう。お米の質が毎年少しずつ変わるように、私たちも学生も毎年変わっていきます。ですが、青学で16年間かけて培ったチームとしての理念は変わらず、コンセプトやキーワードが毎年変化するんですよね。

関谷氏: おっしゃる通り、その年々でお米も作り手も変わります。お酒の場合、時代とともに「嗜好」も変わるんですよね。ビールの時代もあれば、純米ブームや吟醸ブームも。「嗜好」の中でコンセプトを微調整しながら、私たちが醸(かも)すお酒はどんな味わいで、どのシーンで飲むお酒なのか、完成イメージを共有する--。そうやって、みんなで考えることを心掛けています。

原氏: 私の持論なのですが、「T理論」という言葉をよく使っています。Tの縦の棒、この縦軸となるベース、すなわち理念はきちっと持ちつつも、世の中の変化には対応していかなくてはならない。だから、このTの横の棒である横軸の変化をいかに幅広く持つかが重要だと考えています。関谷さんの酒造りへの確固たる理念があるからこそ、時代とともに変わるお客さまの嗜好にも「変化」を持って対応できていると思います。

たとえば、とある工程で思った通りに仕上がらず、失敗してしまうこともありますよね。その場合、どう対応されるのですか?

関谷氏: お酒造りは自然や気候に影響を受けるものなので、「今年はお米が悪かった」ということももちろんあります。ある工程を終えてみると、去年と比較して柔らかく蒸しすぎてしまった--その場合は、次の工程の担当者がどう修正するべきかを考えるようにしています。現場の担当者は、製造技術でカバーすることになるので、技術の引き出しの多さがポイントですね。

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原氏: なるほど。私たちのチームもマネージャーが14人いて、各々で分担して仕事をしているんですが、「横の繋がり」を意識するように伝えています。自分の仕事だけを学ぶのではなく、「全体の仕事の中で、今私はこの部分を任されているんだという意識で仕事をしよう。コミュニケーションを取ることに注力するだけでは、本質的な“横の繋がり”はできないよ」って。

関谷氏: その通りですよね。お酒造りにも蔵ごとに色々な考え方があって、麹を作る人はずっと麹を、という考え方ももちろんあります。私たちの場合は、数年経験をして慣れた頃に、あえて違う工程を任せるようにしています。業界の慣習とは異なりますが、1人が対応可能な工程が増えれば当然業務は効率化しますし、何よりもお互いにフォローし合える関係性ができてくるんです。

原氏: 人間関係も組織も一緒ですね。“繋がり”がいい仕事を生み、組織をつくる。大切ですよね。

———

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業界の慣習にとらわれることなく、蔵が紡いできた歴史を守るために進化し続ける関谷醸造株式会社。後編では、企業が目指す理想の姿と価値観について、社内への正しい理解を深めていくための活動である「インナーブランディング」の事例に迫ります。155年続く老舗・関谷醸造は、社員の意識改革をどのように実現し、次の未来へと向かおうとしているのか——。ぜひ、後編もご覧ください。

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