元スターバックスCEOが語る、コロナ禍の今こそ求められる求心力:ミッション

元スターバックスCEOが語る、コロナ禍の今こそ求められる求心力:ミッション

コロナ禍の今、これまでの日常は大きく変化し、多くの中小企業がさまざまな対応を強いられています。リモートワークやテレワークの推進など、新しい働き方によるメリットは多くあるものの、コミュニケーションに関する課題に直面している企業も少なくありません。「つながり」に制約がある中で、経営者はどうすれば求心力を高めることができるのかーー。今回は、元スターバックスコーヒージャパン代表取締役最高経営責任者であり、日本に数少ない“専門経営者”として確固たる実績を持つ、株式会社リーダーシップコンサルティング 代表取締役社長 岩田 松雄氏にお話を伺いました。

「利益の最大化は経営者の使命」という言葉に感じた違和感

――岩田さんが経営に関心を持たれたきっかけについて教えてください。

 

岩田氏:若い頃から経営者や経営理念については関心がありましたが、より経営に興味を持ったきっかけは、家の近くにある二つのハンバーガーショップでした。一方のお店では、従業員がいきいきと楽しそうに働いている、もう一方のお店の従業員は何だか暗くて、嫌そうに仕事をしているように見えたのです。それがとても不思議でした。同じような商品を販売していて、店員さんはほとんどアルバイト。おそらく時給もそれほど変わらないでしょう。これはきっと経営(マネジメント)の違いだと感じました。

 経営をもっと勉強したいと思い、経営学の総本山であるアメリカのビジネススクールで、マーケティングやファイナンスなど色々なことを学びました。ただ、ビジネススクールで学ぶことは基本的に「事業の正味現在価値(NPV)を計算して、どの選択肢が一番儲かるのか」を定量化して判断するのが基本です。もちろん、とても大切なことなのですが、本能的に違和感を持っていました。ビジネススクールでは“理”ばかりを学ぶけれど、経営には“情”が必要なんじゃないかーー人というものを理解しないと経営はできないと感じていたのです。そこで、休暇中は東洋哲学の本を多く読みながら「人の情」について学びを深めることで、“理”と“情”のバランスを取っていました。

 

――ビジネススクールを経て、ついに「経営者」に就任されたのが2000年ですね。今では、“専門経営者”として確固たる実績をお持ちですが、初めて社長に就任された当時について教えてください。

 

岩田氏:初めて社長に就任したのは、プリクラで有名だったアトラスというエンターティメント企業でした。社長就任演説で、「これからはキャッシュフローを重要視した企業価値経営だ!」などとまさしくビジネススクールで学んだことをひたすら30分間話し続けました。話している途中で、自分の話していることが社員の皆さんに全く伝わっていない、体はそこにあるのに魂がそこにないーー「ああ、こう言うことが経営じゃない」ということに気が付いたのです。

 

それから、企業は何のためにあるのか、ということを深く考えるようになりました。ビジネススクールでは、「企業とは株主の持ち物である。上場している場合は株価、あるいは利益の最大化が経営者の使命である」と教わります。本当にそうだろうか、とても違和感がありました。例えば、デイトレーダーは、アトラスがどんな理念を持っていて、どんな戦略で、どんな商品を作っているのかなんて関心はありません。単なるものとして売ったり買ったりしているだけです。そんな人のために経営するのか、と腑に落ちませんでした。

 

ザ・ボディショップの社長時代、ちょっと大袈裟ですけど、天の啓示がありました。「企業は事業を通じて世の中を良くするために存在する」と思った瞬間に、スーっと腑に落ちました。ザ・ボディショップは化粧品を通じて、スターバックスはコーヒーを通じて、どの企業も商品やサービスを通じて世の中を良くするために存在しているんだと。100人の経営者に事業の目的は何かと聞くと、99人は利益だと答えます。私は間違っていると思います。企業は「ミッションの実現」が目的であって、あくまでも利益はそのための手段であると考えています。

 

ミッション・ビジョン・バリューを定義する

――岩田さんの著書にも多く使用されていますが、経営には「ミッション」や「ビジョン」、「バリュー」といったさまざまな言葉が出てきます。この3つの言葉について、岩田さんの考えを教えてください。

 

岩田氏: 「ミッション」・「ビジョン」・「バリュー」これらはとても抽象的な言葉なので、きちんと自分たちでそれぞれの言葉の定義をした上で使うべきです。教科書的にいうならば、ミッションは「企業の使命や存在意義」、ビジョンは「目指すべき方向性、将来あるべき姿」、バリューは「行動指針」です。

 

「登山家」を例に考えてみましょう。登山家のミッション(使命=存在意義)は、山に登ることです。山に登ることをやめてしまうと、登山家ではなくなりますから、終わりのない活動です。

 

ビジョン(目指すべき方向性、将来あるべき姿)は、ビジュアルとしてイメージできるものを指すので、「5年後に富士山に登頂する」とした場合は、山頂で日の出を拝む姿を想像することができます。そのビジョンを達成すると、「10年後にエベレストに登頂する」という次のビジョンが生まれ、過酷な吹雪のなか、山頂で日の丸を立てている姿がイメージできると思います。

 

最後に、バリュー(行動指針)は山の登り方です。「みんなで手を繋いで」だったらチームワークを、「進める人から進む」なら実力主義を重視した登り方です。他にも「歌を歌いながら登る」であれば楽しく登っていく。言葉の定義がわからなくなったら、ぜひこの例えを思い出してみてください。

 

企業のミッションと社員個人の夢の方向性を揃える 

――コロナ禍の今、リモートワークなど働き方が変化したことで社員と経営者のむすびつきの低下が嘆かれています。求心力を高めるために、経営者がすべきことは何でしょうか?

 

岩田氏: 最近経営者の方から「社員が転職を考えている」、「社員の意欲が下がってしまい、生産性が上がらない」という声が聞こえてくるようになりました。企業や経営者から社員の心が遠ざかっているーーつまり遠心力が働いている状態です。では、どうすれば求心力を働かせることができるのか。その求心力の中心になるものこそ「ミッション」なのです。

 

何のためにこの企業があるのか、何のために働いているのか、ということです。ここで重要なのが、企業にとってのミッションと社員個人にとってのミッションを考えるということ。企業にとってのミッションはこれまでお話した通りですが、個人にとってのミッションは、「使命」(自分がこの世に生かされている理由)に置き換えても良いでしょう。

個人にとって企業は仕事を通じて自分を磨く場、自分の志を遂げる場であり、「志事」であるべきだと思います。だからこそ、個人のミッションをきちんと持っておくことが重要。そういった話をぜひ経営者の皆さんにしていただきたいです。個人のミッションを理解した上で、経営者自らがちゃんと語りかけ、企業のミッションをもう一度確認する。自分がなぜこの会社に勤めているのかを考える機会を作ってあげて欲しいと思います。

          

――企業のミッションと社員個人のミッションをお互いに確認し、合致しているか確認しておくべき、ということでしょうか?


オーナー社長以外は個人のミッションと企業のミッションが100%合致するケースはあまりないかもしれません。企業のミッションに対して賛同してもらえればOKだと思います。自分の「志事」を通じて社会貢献でき、ミッションの達成と自己実現できることが理想です。企業のミッションがその中心にあるからこそ求心力が生まれるのだと思います。

 

スターバックスCEO時代、「私に対して忠誠を尽くしてもらう必要は全くない。でも、このミッションに対して忠誠を尽くして欲しい。だから、もし私自身がミッションに合わないことをおこなった時にはちゃんとフィードバックをして欲しい。」とパートナーに伝えたことがあります。

 

経営者は権力を持っていますから、みんな経営者の方を見ます。この現象が悪い方向に働いてしまうと、社員が社長の顔色を伺って行動するようになったり、言うべきことを言わなくなるーーというようなことが起こりがちです。経営者個人に対してではなく、企業のミッションに対して忠誠を尽くしてもらうことで、社員自身の行動の判断基準が明確となり、より良い方向に求心力が働くはずです。社長より上位概念にあるのが、ミッションでありバリューなのです。

           

ミッションを浸透させることが、社員一人ひとりの素晴らしい仕事を可能に

――「ミッション」を中心に据えた経営が求心力を高めるのですね。ミッションを浸透させるために、岩田さんが取り組まれてきたことがあれば教えてください。

 

岩田氏: ミッションを浸透させる主な方法は、大きく2つあります。トップはミッションについて繰り返し繰り返し伝え続けることと昇格や採用などの人事評価の中にミッションや行動指針(Value)の体現度をきちんと加味することです。

私が8年間社長として続けたことは「社長からのお手紙(マネジメントレター)」を出すことでした。ザ・ボディショップとスターバックスは全国にお店があります。もし自分がお店のスタッフだったら、離れ小島にポツンと一人取り残されたような孤独感を感じるのではないか。社長は何を考えているのか、会社はどの方向に向かっていくのかを知りたいだろうと思い、全スタッフに向けてお手紙を出し続けたのです。

ザ・ボディショップ時代は毎週3000文字、スターバックス時代は1800文字を月2回。とても大きな負担でした。3000字は書くのに大体4、5時間はかかりますし、もうやめようと何回思ったか。でも、お店に行くとみんな穴があくくらい読み込んでくれているのです。スターバックス時代、こんなことを書いたことがありました。

「もし台風や震災で困った人が目の前にいたら、助けてあげて欲しい。水を必要としている人がいたら、ペットボトルを差し出して欲しい。スターバックスの社員である前に、人間として正しい判断してほしい。必ず、私はその判断を支持するから。」

ある日、主婦の方からお礼状が届きました。内容を読んでみると、この方はたまたまスターバックスの店舗の前で交通事故を起こしてしまい、本人はパニック状態。そこへ窓越しに事故に気が付いたアルバイトのパートナーが一杯のコーヒーを差し出し、「これを飲んで心を落ち着かせてください。」と声をかけてくれた、とーー。

この接客をしてくれたアルバイトのパートナーは私のレターを読んでくれていたようでした。普段から、自分たちとお店の存在理由、つまりミッションについて、自分たちの言葉で何度も話し合い、考えてくれたからこそ行動に移せたのだと思います。

 

今だったらYouTubeやZoomの動画でもいいと思います。経営者が直接社員に会えないなら、せめて週に1回、月に1回でも同じ船に乗っているという感覚を持ってもらうために、語りかけてあげるコミュニケーションをとってみてください。まず、自分が伝えたい想い、そして相手が聞きたいだろうという内容の両方を意識しながら、できる限りオープンにすることを心がけてみてください。

 

中小企業経営者に向けたメッセージ

――最後に、中小企業経営者の方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

 

岩田氏: 現在のコロナ禍のように、危機的状況の場合はトップが明確なビジョンを示さなければいけません。ビジョンというのは5年後、10年後、こういう企業になりたいという姿です。今は大変だけど、こういう風に対処し5年後なりたい姿を示す。明確なビジョンを適切なコミュニケーションを取りながら示すことが、とても大切だと思います。

 

日本は多くの中小企業に支えられています。中小企業の場合、大企業に比べて小回りが効くので、よりニッチなところにフォーカスできますーー自分たちの強みを活かして、経営者の皆さんには、きらりと光るような、世界でも通用するような価値をひとつ探していただきたいです。自分たちの会社でしか作れないものーー小さなギア一つでもいいかもしれません。自社の強みを活かして、それに磨きをかけることが一番大切だと思います。コロナ禍も考えようによっては追い風かもしれません。いや追い風にしてしまうのです。私自身も、時間のある今しっかり自分磨きをして、私にしかできないことを一所懸命やっていこうと思っています。ぜひ、一緒に頑張っていきましょう!

 

プロフィール

株式会社リーダーシップコンサルティング 代表取締役社長 岩田 松雄氏

1982年に日産自動車入社。製造現場、セールスマンから財務まで幅広く経験し、UCLAビジネススクールにて経営理論を学ぶ。外資系コンサルティング、日本コカ・コーラ常務執行役員を経て、(株)アトラスのCEOに就任。3期連続赤字企業を再生。「THE BODY SHOP 」を運営する(株)イオンフォレストのCEOに就任。売上げを約2倍・利益5倍にする。スターバックスコーヒージャパン(株)のCEOに就任。「100年後も輝くブランド」に向けて、次々に改革を実行し業績を向上。現在リーダー育成ための(株)リーダーシップコンサルティング代表。

 

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